第10章 社債
I総説
1 社債の意義
・社債とは、一般公衆から資金調達ができるように、多数の部分に分割された株式会社の債務であって、これについて債券(社債権を表章する有価証券。社債券ともいう)が発行されるものをいう。
←会社の借金の一種だが、貸手が多数の公衆である点が特徴。
→社債は、多数の一般公衆から少額ずつでも資金を吸収して巨額な資金としてまとめた、他人資本の調達方法。会社は比較的容易に長期・巨額の資金を調達できる。
・会社からすれば、借金の一方法だが、一般公衆を相手とする長期巨額の債務なので、銀行などの大口債権者とは異なり、社債権者の保護の必要がある。
・また、巨額の借入を小口化して多数の者から行うため、取扱の均一化などの技術的処理が必要。社債権者は社債券を有し、これは流通することが予定されているため、有価証券法規定の整備も必要。
2 株式との異同
・共通点=ともに小口の資金を広く一般から集めて、巨額の資金を調達する方法。いずれも資金拠出者が資金回収が容易なように、「株券」や「社債券」という有価証券が発行される。
・差異=A株主は会社の持分権者(社員)だが、社債権者は会社外部の債権者。
→したがってB株主は会社経営に参加する権利が認められるが、社債権者にはない。
→C株主は配当可能利益がなければ利益配当は支払われないが、社債権者は配当可能利益の有無に関わらず確定利息の支払いを受ける。
→D株主の出資は基本的に払戻しがないが、社債は償還期限には償還を受けられる。
→E会社解散時には、株主は残余財産分配請求権があるがこれは会社債権者に劣後する。社債権者は会社債権者なので株主に優先して、会社から弁済を受けることができる。
・法律上、典型的な社債と株式の差異は大きいが、現在では株式・社債のメリット・デメリットを組み合わせる形で、両者の中間的なものが発行されている(株式でも、非参加的・累積的優先株、議決権制限株式、償還株式などは社債的要素があり、社債でも新株予約権付社債は潜在的な株式といえる)。
3 社債の種類
(1)社債権の内容により、普通社債と新株予約権付社債に区分される。
A普通社債:転換条項や新株引受権がつかない、基本になる社債。発行会社は期限に元本を償還すること、定期的に利息を支払う(ふつう年二回)ことを約束する。さらに利回り(利率のほか、券面額にどれだけ割増して償還するかによっても変動する)を含めて社債の発行条件という。
B新株予約権付社債:新株予約権が付された社債。社債の発行価額と新株予約権の行使価額が同額とされ、新株予約権の行使により当然に社債が償還されてそれが新株予約権の行使価額に充てられるもの(かつての転換社債)と、社債に付された新株予約権の行使価格を別に払い込むことができるもの(かつての非分離型新株引受権付社債)。なお、普通社債と新株予約権を同時に募集し、両者を同時に割当てることもできる(かつての分離型新株引受権付社債)。
(2)社債は担保の有無により、無担保社債と担保付社債とに区別される。担保付社債は担保付社債信託法に基づき、社債に所定の物上担保をつけたもの。社債権の内容について無担保社債と差異は無い。担保付社債の担保は、会社が受託会社との間で社債権者を受託者とする信託契約を締結して、これに基づき受託会社が社債権者のために担保の管理をする。
(3)社債については有価証券たる債券が発行される。債券に社債権社の氏名が記載される記名社債券と氏名の記載のない無記名社債券がある。実務的には無記名社債券がほとんど。
II社債の発行手続
1 社債発行の制限
・平成5年改正前商法では、社債発行限度枠の規制があったが、現在は撤廃されている。
・§298(分割払込制(§301II(7))のとられた社債)。§299。§300。
2 発行の決定
・取締役会決議(§296。社債の内容についての重要事項のほか、社債管理会社も特定する)。→株主総会の特別決議が必要な場合@新株予約権付社債の第三者に対する有利発行(§341ノ3III)。A定款で株式の譲渡制限のある会社が株主割当以外の方法で新株予約権付社債を発行するとき(§341ノ5I)。
・複数の会社が合同して社債を発行することも可能(§304)。
3 発行の方法
・代表取締役が取締役会決議に基づき発行事務を担当する。
A総額引受(§302):特定人(原則として証券会社)が発行会社との間で引受契約により社債の総額を包括的に引受る方法。引受人は機を見て社債を一般に売り出す。
B公募発行(§301):公衆から社債を募集する方法。社債発行会社は、銀行との間で無担保社債は社債管理契約または発行事務・期中事務委託契約、担保付社債では信託契約を締結する。そして証券会社との間で社債の引受・募集取扱契約を締結して、さらに応募額が社債の全額に満たないときは証券会社が残額を引受るという方法(残額引受)をとることが多い。
→公衆保護のため社債申込証がかならず作成される(§301II。総額引受のときは不要)。ここに社債権の内容が記載される。
→申込の方法:募集に応じようとする者は、社債申込証にその引受ようとする法定時効を記載して署名。
・申込に対して会社が割当をする。割当により社債契約が成立する。打ち切り発行も可能(§301III)。
→払込(§303。分割払込は実務上ほとんどない)。払込につき株式の払込のときのような制約はない(相殺の禁止、払い込み場所の制限など)。
III社債の管理
社債は多数の公衆に対する、長期かつ集団的な会社の借入。→社債権者が自己の利益を守りやすくし、集団的画一的に法律問題を処理するために社債管理会社制度と社債権者集会の制度がある。
1 社債管理会社
(1)設置強制・資格等
・社債を募集するには社債管理会社を置かねばならない(§297。但書は自分で自分を守れる専門家が社債券者となるような場合は社債管理会社は不要だとの考え方による)。→社債管理会社になれるのは銀行・信託会社その他免許を受けた者(§297ノ2)。←小口の社債券者が多数いる時自分の利益を守るのは容易ではないから、専門の管理会社を置いて権利保全や債権回収の世話をさせようとする(発行会社と社債管理会社との間の契約による)。担保付社債の場合の社債の管理は受託会社がする。
・社債権者保護の制度なので発行会社が勝手に解任できず、社債管理会社も勝手に辞任できない。社債管理会社がなくなるときは事務承継者を定める(§312、§314)。
・社債管理会社を置かずに社債を発行した場合、過料の制裁(498条22号)があるが、発行された社債は無効にならない。ただし、発行後2カ月以内に社債管理会社を設けないと社債の総額について期限の利益を失う(§314I、IIの類推)。
(2)社債管理会社の権限
社債管理会社は、社債権者の利益のため、償還・利息の支払を受け、債権の保全を実現するのに必要な一切の裁判上裁判外の行為をなす権限を有する(§309)。複数いる場合、§310。
→債権の処分ににあるた行為は社債権者集会の決議が必要(§309ノ2)。
・調査権(§309ノ3)。
・社債権者集会の招集、出席・意見陳述、決議の執行(§320I、§322、§330)。
・発行会社が一部の社債権者に対して行った弁済・和解などが著しく不公正な場合、社債管理会社は訴えによりその取消を求めることができる(§340)。
(3)社債管理会社の義務・責任
・公平・誠実義務(§297ノ3):社債管理会社は発行会社との間で契約を締結するが、社債権者に対して義務を負う。多数の社債権者を公平に扱い、発行会社と社債権者の間で利益が対立するとき社債権者の利益を優先させる義務。
・責任:§311ノ2
2 社債権者集会
社債権者集会は、社債権者の利害に重大な関係のある事項について、多数決で社債権者の総意を決定する臨時的な合議体(会社内部にあるものではないので、会社の機関ではない)。この制度により社債権者は共同の利益を確保でき、発行会社は個々の社債権社との折衝が不要となる。決議の執行は、原則として社債管理会社。社債権者集会で別の者を定めることもできる(§330)。
→数種の社債が発行されているときは各種類の社債について招集されねばならない(§338)。
・権限は法定の事項(§309ノ2I、§309ノ4、§334、§341、§376III、§416IIなど)および裁判所の許可を得た事項(§319)。
・招集権者=発行会社と社債管理会社(§320I)。社債権者による招集につき§320III、V。招集手続は§339が株主総会の手続を準用。§232など。
・議決権=§321I。無記名社債の場合II項。代理行使=§339I→§239II、III。書面による投票(§321ノ2)。電磁的方法による議決権行使=§321ノ3I。
・決議方法は§324(定足数要件なし。一定の重要事項には特別決議)。→裁判所の認可を得て、拘束力を生じる(§327。欠席者や反対者も拘束する)。
3 社債発行会社の義務
・社債発行会社は社債原簿を作成する(§317。備置・閲覧=§263)。社債券の発行。
IV社債の譲渡
社債は、安全確実かつ迅速に譲渡や担保化ができるように有価証券としての社債券が発行される。社債券は社債契約上の権利を表章する有価証券(通説)。→善意取得、除権判決制度の規定が適用される。
A記名社債の譲渡:譲渡の意思表示と相手方への社債券の交付により譲渡されるが、社債原簿および社債券の名義を書き換えないと、会社その他の第三者に対抗できない(§307I)。
B無記名社債の譲渡:譲渡の意思表示と相手方への社債券の交付により譲渡される。対抗要件は社債券を占有することで足りる(動産とみなされる(民§86III)から)。
・登録社債:社債には社債等登録法による登録制度がある(社債等登録法)。記名社債・無記名社債のいずれも社債を登録し、社債券を発行しないことができる。登録社債の譲渡は意思表示によってなされるが、対抗要件は社債登録簿への登録(記名社債ではさらに社債原簿の名義書換がいる)。
V元利金の支払
・社債権者は定期的に約定の利息の支払いを受ける。→記名社債はその支払期の社債原簿に記載された社債権者に社債原簿に記載された住所で支払われる。無記名社債は支払期に債券に添付されている利札を支払場所に提示して、利札と引換に支払われる。なお§315参照。登録社債は登録請求時に社債権者が元利金支払場所を指定する。
・償還期限が到来するときは、社債が償還され、これにより社債の法律関係は終了する(償還期限・償還方法は社債契約で定まる→会社は期限前に随時に社債を買入消却するなどの約定をしたり、その権利を留保したりできる)。償還時には券面額を払い戻すのが原則だが、これに上乗せして支払をすることを約束することもある(割増償還)。
・社債の償還請求権の時効期間は10年。利息の支払請求権は5年で時効。§316。
・社債管理会社が社債の償還・利払を受けたときは、§309II、III。
VI新株予約権付社債
(1)意義
新株予約権付社債とは、新株予約権が付せられた社債であって、新株予約権または社債が消滅した場合を除き、新株予約権と社債の一方のみを譲渡することのできないもの(§341ノ2IV)。→新株予約権付社債を有する者は、社債権者として株主より安定的な地位を享受しつつ、株価いかんによっては新株予約権の行使により株主になることができる。会社としても普通社債よりも新株予約権という魅力を付することで、比較的低利で社債発行できるメリットがある。
・新株予約権と社債は社債権者から分離はできないが、会社側から新株予約権のみまたは社債部分のみの消却・償還は可能(§341ノ12、§341ノ14)。
(2)発行手続:取締役会決議(§341ノ3)。なお、社債に付する新株予約権の下図は社債の最低額につき同数であることを要する(§341ノ2III)。また、新株予約権付社債は合同発行は禁止(§341ノ2V)。
・募集方法は、株主割当(譲渡制限会社は原則としてこれ。§341ノ5)、第三者割当、公募とも可能。
・募集の際には、払込期日の2週間前に公告・株主への通知(§341ノ15IV→§280ノ23)。
・特に有利な条件での発行は株主総会の特別決議がいる(§341ノ3III→§280ノ21。譲渡制限会社で株主割当以外の方法によるときも。§341ノ5I但書)。
・申込、引受権の行使は新株予約権付社債申込証による(§341ノ6)。
・払込につき、§341ノ7。
・払込期日後遅滞なく会社は新株予約権付社債券を発行(§341ノ8)。無記名式のみ(§341ノ8III)。
・社債原簿と新株予約権原簿の両方に記載(§341ノ9)。登記(§341ノ10)。
(3)新株予約権付社債の譲渡:社債券の交付による(§341ノ11)。
(4)新株予約権の行使
請求書に新株予約権付社債を添付して会社に提出し、かつ新株予約権の権利行使価格の全額の払込(341ノ13)。これにより会社は新株を発行するか、自己株式を移転し、新株予約権付社債権者は株主になる。このとき、新株予約権付社債の発行条件により、新株予約権の行使により当然に社債が償還されその価額が新株予約権の行使価額に充当される場合、新株予約権付社債は消滅する。社債が強制的に償還されない場合は新株予約権付社債権者は新株予約権の権利行使価額を支払って、株式を受け取り、社債は残る(新株予約権が行使済の旨が社債券に記載されて会社から返却される)。
・社債の償還期日が来ても行使されていない新株予約権がある場合の処置について、§341ノ14。